『女のいない男たち/村上春樹』を読んで

僕は、比較的独りでいることが好きだし、
独りでいることが気にならない方だと思うけれど、
男にとって「女=伴侶・彼女」がいないこと、
またはいなくなったことの喪失感がとてもリアルで、
物語・創作とわかっていても
心の深いところを揺さぶる「なにか」が、
どの物語にも潜んでいて、
惹き込まれない訳にはいかなかった。

<ドライブ・マイ・カー>
「世の中には大きく分けて二種類の酒飲みがいる。
ひとつは自分に何かをつけ加えるために酒を飲まなくてはならない人々であり、
もうひとつは自分から何かを取り去るために酒を飲まなくてはならない人々だ」

いずれにしても、どちらも辛い飲み方だ。辛いけれど、その通りだと思う。

僕はどちらかと云えば後者かな。
素面の時はなんだかいろいろなものに阻まれたり邪魔されたりして
(結局自意識過剰なだけだと思うけど)
自分自身でも面倒くさいヤツだと思うことことがあるから
余計なことを考えないために飲むのかもしれない。

「だってそれはただの肉体じゃないか」
深い。ぼくはまだそこまで達観できないな。

「奥さんはその人に、心なんて惹かれていなかったんじゃないですか」
「だから寝たんです」
「女の人にはそういうところがあるんです」
女の人の本質をついているのかもしれないけれど、
これを、どう理解すればいいのだろう。


<イエスタディ>
「そして僕らは友だちみたいになった」
友だちみたいって、どういうこと?
友だちと友だちみたいとの境目ってなに?
サラッと書かているけど、とても気になる一文。

これまでと違う人間になるために、
違う方言を使うことって、有効なのだろうか。
服やアクセサリ・持ち物を変えるのと同じで
表面的なことではないのか。
外側のものが内面に影響を与えることは否定しないけれど、
でもそれって、結局浅いところの出来事じゃないかと思う。

木樽はバカだ。
一度手放してしまったら、二度と戻って来ないゾ。特に彼女は。
必要な二人なら、必ずまた惹かれあうなんて、
そんな都合よく行くわけないじゃないか。
心底そう考えている、時として傲慢なほどの自信が
10代の自尊心なのかもしれないけれど。

氷できた月の夢はなんの比喩なんだろう。
航海は人生、氷の月は二人の関係?
成長した二人には、新しい共通の目標が必要ということを
氷の月に象徴させたかったのだろうか。


<独立器官>
「肉体なんて結局のところ、ただの肉体に過ぎないのだ」
確かに人は刹那に生きる存在であって、
一緒にいるその時にだけ心が通じていると感じることができれば
それでいいという考え方は成り立ちうると思う。

刹那に生きる存在であるからこそ、
不変のものを求めると考えることもできるのだけれど。
渡会医師は、結局のところ不変の愛を求めて死んでしまうことは、
「肉体なんて~」に対する強烈なアンチテーゼ。

からだのどことは特定できないけれど、
どこかにあって自分の意志や理性ではコントロールできない「独立器官」で人は恋をする。

文字どおり身を焦がすような恋が
一度だけでもできただけでも
渡会医師は生まれてきた甲斐があったんじゃないかな。
技巧的な人生の先なんて、きっとからっぽなんだから。


<シェラザード>
6編の短編の中で、
一番惹かれ、最も解らない物語だった。

何故羽原はハウスに閉じ込められているのか、
シェラザードの本当の使命は何なのか、
何故性交までするのかさっぱり解らない。

羽原とシェラザードと空き巣に入ることがどこで結びつくのか、
シェラザードとやつめうなぎを結びつけるものはなんなのか、
さっぱり解らない。

「あるときにはとんでもなく輝かしく絶望的に思えたものが、
それを得るためには一切を捨ててもいいと思えたものが、
しばらく時間が経つと、あるいは少し角度を変えて眺めると、
驚くほど色褪せて見えることがある」
女性の恋愛観の普遍的側面ではなかろうか。

「女が衣服を身につけて行く動作は、
それを脱ぐときの動作より興味深いかもしれないと彼は思った」
同感。
電車の中で化粧をしている人を見入ってしまう時に感じる感情がこれと同じ。


<木野>
止めようもなく損ない続けること、
そのことのメタファーが木野なのではないか。

「木野」は、ある時点までは誰にとっても居心地のよい場所だった。

木野は傷つくべき時に充分傷つかなかったために
永遠に心の一部に渇きを抱えることとなってしまった。
けれど誰が木野を責めることができると云うのか。
僕が同じ状況に置かれたら、
きっと心を貝のように強く閉じ、
少しでも傷つくまいと努めたと思う。

木野の渇きに女が呼び寄せられ、
木野の渇きは更に深いものになってしまった。
固定化されたと云ってもよいくらいに。

そして、それまでなんとか保っていたバランスを崩してしまい、
永遠に損なわれ続けることとなってしまった。

『部屋のドアをノックする者は誰か』

また血が流れるかもしれない。
かさぶたの下に新しい皮膚はまだできていないかもしれない。
二度と立ち上がれないほどに身体も心も傷ついてしまった時に
果たして僕は痛みから逃げずに向き合うことができるだろうか。


<女のいない男たち>
すべての男性は、これに似た物語を一つは持っているんじゃないだろうか。
こんなに華々しく、ドラマチックでなくとも、
道端に咲くアザミのような物語を。





女のいない男たち
文藝春秋
2014-04-18
村上 春樹

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