「優しい秘密―おいしいコーヒーのいれ方〈8〉/村山由佳」を読んで

今回は幾つか山場があり、起承転結で言えば転にあたるのだろうか。
僕の印象に残ったのは、何と言っても星野りつ子が勝利のマンションを訪ねていったところだ。

なんてせつないんだろう。りつ子の痛みがこちらにも突き刺さってくるかのようだった。
僕ならいったいどうしただろう。
「どうせ人生、なるようにしかならない。抵抗するのをやめて、流れに身を任せるのも時には必要なことではないか」
「このままでは、こいつは間違いなく壊れていってしまう。救えることが出来るのは、世界で俺しかいないなら、それも俺に課せられた使命ではないか」
って考えるんじゃなかろうか。

彼女の気持ちを受け入れたあとに、猛烈な自己嫌悪に陥ることは目に見えている。ドロドロの愛憎劇の末、おそらくかれんもりつ子も失ってしまうのだろう。
けれどあの場でそうすること以外に何が出来ると言うのだ?
痛々しいほど痩せ細り、ストーカーまがいの行為までし始め、寂しさを紛らわすために体の温もりを求めて好きでもない相手と寝てしまい、心も体もバラバラになろうとしているりつ子を目の当たりにして、しかもその原因の多くが自分にあるとしたら、りつ子の気持ちに一時でも応えてやること以外に何が出来ると言うのだろう。

他のどんな選択肢も僕には偽善的にしか思えない。
大体にして、理性が何時いかなる時も心と体を完璧に制御できていて、
濁流のような大きな流れに抗って立ち続けられるほど、
品行方正な聖人君子になんて僕になれるわけがないじゃないか。

すみません、星野りつ子に個人的なSympathyをもっていたため、
感情移入しすぎたようです。



あとがきにあった、「良いことと悪いことは時計の振り子のように、バランスが取れるようになっている」というのは、他でも聞いたことがある。
確か「正負の法則」って言っていたかな。
それからというもの、宝くじのような努力や辛苦の伴わない報償には期待することはなくなった。
結局あとで形を変えて大事な何かを失うなら、自分にとって間違いなく大切なものをこの手で握り締め、足元を固めて自分の足でしっかり立っていることのほうがよほど大切だし、精神衛生上もさっぱりしていて良いのではないか。

村山さんの作品に惹かれるのは、この辺の基本的な価値観が自分ととても似ているからかもしれない。



優しい秘密―おいしいコーヒーのいれ方〈8〉

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この記事へのコメント

2007年04月22日 20:07
前回のブログに引き続きこんばんは☆
入院・・・きっとゆっくり読書でもして
体休めなさいというサインだったのかも
知れませんね。
何かを手に入れる時、何かを失う様にな
っている・・といった言葉聞きますけど。
大切なものはしっかり握っておかないと、
失ってしまってからでは、手遅れになり
ますからね。。
それにしても『優しい秘密』粋なタイトルだ
なぁ。。
いろいろ感想文
2007年04月22日 20:28
凛さん、前回に引き続きコメントありがとうございます。
「優しい秘密」ってタイトル、僕もすごく気になっていました。
他にはシリーズ第1作目の「キスまでの距離」もかなり引き込まれる力の強いタイトルだと思ったけれど、「優しい秘密」にはもっと穏やかで深いものを感じます。
村山さんはタイトルを決めてから書き始めるのか、内容を書ききってから一番ふさわしいタイトルを付けるのかどちらでしょうね。
僕の好きなもう一人の作家である村上春樹さんは、タイトルを決めてから書き始め、途中でタイトルを変更することはまずないそうです。
2007年04月22日 20:50
村山さんはどうなんでしょうね?
私は何となく書ききってからという気が
します。。
村上春樹さん・・そうなんですか。村上
さんについてのブログも今度拝見させて
頂きますね!
そういえば、小学生の頃作文は内容でき
上がってから題名付けていたけど、今詩
やブログ書くとしたら、タイトルを決め
それから書きますね。はい。。
色んな書き手の想い、おもしろいですね。
いろいろ感想文
2007年04月22日 22:37
村上春樹さんは、文体がとてもシンプルでスラスラ読めてしまうんだけど、かなり重いことや深いこと、時には難解な世界を描いていたりします。
シンプルなのは文体だけに留まらず、登場人物も非常に少なく時には名前さえありません。
実際にはとてもありえないようなことが、ごく普通になんでもないような事のように書かれているので、「んっ!?」って思いながらもどんどん惹き込まれていってしまう不思議な作家です。
個人的には「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」や「海辺のカフカ」あたりが最初は読みやすいと思います。
「ノルウェイの森」から入ってしまった僕は、かなりの衝撃でしたけど・・・・・・。

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